彼が22歳の時に、偶然立ち寄った本屋で「ソクラテスの思い出」に感銘を受けた。昭和初期の神田の本屋街でのことではない。イエス様以前のギリシャの町アテネの本屋でのことと聞けば、思わず「おっ」とのけぞってしまう。民主主義発祥の地、哲学揺籃の地アテネが悠久の時を超えて突如目の前に現れた感じだ。22歳の彼とは、ストア学派の創始者ゼノン(紀元前335年 – 紀元前263年)のこと。日本は神代の2300年昔に本屋さんがあったとは!ギリシャは今多くの難民の経由地としてつらい立場にあるというが、歴史の厚みに脱帽しながら、賢人の故郷らしい解決策を講じてほしいと思う。
あ、どうして本屋の話からこうなったかというと、実は今、烏に興味があって「カラスの教科書」で勉強中。著者は動物行動学の権威。次のような一文と出会った。「『余計なことを考えるな、黙って手を動かせ』的なストイックな世界観を持っているのがドバト」(193頁)。久しぶりにストイックという言葉と出会ったものだから、つい寄り道してウキペディアに相談した結果が冒頭の本屋さん。
それは置いておいて、「ドバトのストイックな世界観」に触発されて思い起こされたことが、教育的立場にある人々の「世界観」。ある小学校の標語の一つは「負けるな」、ある中学校の正門入口の大きな石に刻まれているのは「やればできる」。個人的には、叱咤激励はスポーツ選手にはいいかもしれないが、教育の普遍的な原理になりうるものか疑問があった。引け目を感じることの多い自分としては、せめて「負けても諦めない、できなくても諦めない」ぐらいにしてほしい感じはする。
で、もうちょっと調べたら、ストア学派は「完全に自立的な個人の意志」を大事にするものらしいと分かった。この解説で、二つのモットーは、本当は、子供たちの自立を促しているらしいこと、だから、単なるドバト的ストイックな世界観を超えているらしいと思えたのでようやく平静な気持ちが蘇った。
蛇足だが、ゼノンが憧れたソクラテスの奥さんは悪妻として有名らしい。こんなエピソードがあるという。ある時クサンティッペ(奥さんのこと)はソクラテスに対して激しくまくしたて、彼が動じないので水を頭から浴びせた。しかしソクラテスは平然と「雷の後は雨はつきものだ」と語った。*以上出典はウキペディア。
暇に任せた雑学散歩も楽しい。
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