2004.8.15(聖母の被昇天）ミサ説教音声
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ミサ説教映像

ルカによる福音12章1節-6節、10節ab

　また、天に大きなしるしが現れた。一人の女が身に太陽をまとい、月を足の下にし、頭には十二の星の冠をかぶっていた。女は身ごもっていたが、子を産む痛みと苦しみのために叫んでいた。また、もう一つのしるしが天に現れた。見よ、火のように赤い大きな竜である。これには七つの頭と十本の角があって、その頭には七つの冠をかぶっていた。竜の尾は、天の星の三分の一を掃き寄せて、地上に投げつけた。そして、竜は子を産もうとしている女の前に立ちはだから、産んだら、その子を食べてしまおうとしていた。女は男の子を産んだ。この子は、鉄の杖ですべての国民を治めることになっていた。子は神のもとへ、その玉座へ引き上げられた。女は荒れ野へ逃げ込んだ。そこには、神の用意された場所があった。
　私は、天でおおきな声が次のように言うのを聞いた。「今や、我々の神の救いと力と支配が現れた。神のメシアの権威が現れた。」
(日本聖書協会『聖書 新共同訳』　より)

一人の女。身ごもっていた。子を産む痛みと苦しみ。あ、マリアさまのことだなと思う。そして、子を産んだ「女は荒れ野へ逃げ込んだ。そこには、神の用意された場所があった」と聞くと、ヘロデ王を逃れてエジプトに逃れた聖家族が連想される。そして、竜は、ヘロデ王、ということになる。
　あ、なーるほど。
　しかし、黙示録がいかに象徴的な描写が多いと言っても、こうした謎解きみたいなことが本意ではない。聖書は、あくまで、私たちがいかに生きればいいかを促すものだから、解釈や解説だけでは無意味。そう独り言を言いながら、読み直すと、十二の星。十二と聞けば、直ぐに、イスラエルの十二部族、神の民、そして教会の礎（いしずえ）十二使徒。
　もしかして、この女の人って、教会のこと？更に読み直してみると、ヨハネが得意の幻を駆使して描いていることが、間違いなく、教会の現実の姿に見えてくるから面白い。面白いというか、なーんだそうだったのかと気づくことで、視界が開けたことが嬉しいという意味。
　実は、教会の使命というか、信者である私たちの使命は救い主を世に証すること。福音宣教とも言う。人生いろいろ、人もいろいろだから、いろんなやり方があると思うが、キリストをのべ伝える点は共通。つまり、教会は、「この現実の世界に、身の回りの社会にキリストを生み出す」。そうは言っても、私たち信者の心を萎えさ、信仰そっちのけの生活を強いる現実世界の力はすさまじい。まさに、生まれてくる子を食べてしまおうと立ちはだかる竜のよう。その竜は七つの頭を持っているとヨハネが証言するが、七は完全数。なるほどかなうはずがない。
　そんな弱気な発言を見越したかのように、ヨハネは続ける。「女は荒れ野へ逃げ込んだ。そこには、神の用意された場所があった。」
　荒れ野と聞けば、今度は、出エジプトの舞台。砂漠は死の世界であると同時に、砂漠の四十年はイスラエルと神様とのハネムーン時代とも言われる。なるほど、この竜が支配する現実世界の攻勢に無惨な敗北をきさないために、いや、それでも顔を上げて信者らしく生きるためには逃れの場を確保しなければならない。
　苛立ち、焦り、ボヤキ、劣等感などなどは私の荒れ野。しかしそんな荒れ野が神様とのハネムーンの場所になる。えっ、いつ？どんな風にして？偉そうに聞こえるかも知れないが紹介しよう。羊飼いたちの口から幼子誕生の知らせを天使から受けたと聞いた時のマリアさまの反応についてのルカの証言。「聞いた者は皆、羊飼いたちの話を不思議に思った。しかしマリアはこれらの出来事を全て心に納め、思い巡らしていた。」（ルカ２，１９）
　ところで、今日は聖母の被昇天。聖母が天に上げられ神と出会われた日。この喧噪の巷（ちまた）、竜が立ちふさがる現実社会のど真ん中で、単に「不思議だなあ」で済ますのでなく、ましてボヤキで終わるだけでもなく、何とか、「一体神様の思いはナンナンダ。ボクにどうして欲しいのだ！と心に納め、思い巡らす」信者になること。そうしたら、少なくともあなたの中にキリストが誕生することに気がつくだろう。そして、マリアさまのために天に特別の場所が用意されていたように、あなたのためにも、実は、神様が今、特別の場所を用意しておられることに気づくはず。それは、この世でも、もう天。それに気づかないのが本当の盲点（天）。ア、シツレイ。神様からの特別の光に当たれば竜にも負けない。
　ちなみに、「心に納める」の英訳は、トゥレジャー(tresure)。宝物という意味。つまり、荒れ野の状況を「宝物にする」。
　産みの苦しみ？そんなことしたことない？被昇天を祝ったのだから、こんどはアンタの番。