アブラハムの困惑
2004.9.26(年間第26主日)ミサ説教音声
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ルカによる福音16,19-31
ある金持ちがいた。いつも紫の衣や柔らかい麻布を着て、毎日贅沢に遊び暮らしていた。この金持ちの門前に、ラザロというできものだらけ貧しい人が横たわり、、その食卓から落ちるもので腹を満たしたいものだと思っていた。犬もやってきては、そのできものをなめた。やがて、この貧しい人は死んで、天使たちによって宴席にいるアブラハムのすぐそばに連れて行かれた。金持ちも死んで葬られた。そして、金持ちはよみでさいなまれながら目を上げると、宴席でアブラハムとそのすぐそばにいるラザロとが、遙か彼方に見えた。そこで、大声で言った。「父アブラハムよ、私を憐れんでください。ラザロをよこして、指先を水に浸し、私の舌を冷やさせてください。私はこの炎の中でもだえ苦しんでいます。」しかし、アブラハムは言った。「子よ、思い出してみるがよい。お前は生きている間によいものを貰っていたが、、ラザロは反対に悪いものを貰っていた。今は、ここで彼は慰められ、お前はもだえ苦しむのだ。そればかりか、私たちとお前たちとの間には大きな淵があって、ここからお前たちの方へ渡ろうとしても出来ないし、そこから私たちの方に超えてくることも出来ない。」金持ちは言った。「父よ、ではお願いです。私の父親の家にラザロを遣わしてください。私には兄弟が五人います。あの者たちまで、こんな苦しい場所に来ることのないように、よく言い聞かせてください。」しかしアブラハムは言った。「お前の兄弟たちにはモーセと預言者がいる。彼らに耳を傾けるがよい。」金持ちは言った。「いいえ、父アブラハムよ、もし、死んだものの中から誰かが兄弟のところに行ってやれば、悔い改めるでしょう。」アブラハムは言った。「もし、モーセと預言者に耳を傾けないのなら、たとえ死者の中から生き返るものがあっても、その言うことを聞き入れはしないだろう。」
(日本聖書協会『聖書 新共同訳』 より)
「今更何を言うか!」さすがのアブラハムもそう叫びたかったに違いない。それにしても、「神は公平」という事実がこんなにも冷酷なことだったとは、後の祭り。金持ちは諦めきれないのだが・・・。
「こんばんわ!こんばんわ!」
けたたましくドアをたたく音。
夢うつつに体を起こすと間違いなく我が家の玄関先。あわてて飛び起きて時計を見ると深夜零時。何事ならんと急いで着替えて駆け下り、明かりをつけ、ドアを開けると見覚えのある男。
「何のご用ですか?」
「アレ、あの時のお方でしょ?おや変わったんですか。三年か四年前、お世話になりましたよ、ここで・・・。」
「で・・・?」
「忘れたんですか・・・。」
コイツ、あの時ワシにウソ八百並べて一宿一飯に旅費までも巻き上げたヤツだ。看板になるまで酒を食らって追い出されたに違いない。で、「また、あの神父さんに・・・。」人をばかにしやがって。今度はその手にはのらんぞ。
そう思ったトタン、ムラムラと怒りがこみ上げて完全にキレた。
「こんな遅くまで、酒飲んでからくるな!」バッターン、ガチャッ!
間もなくして道路では女性の甲高いいカラムような声。「アンノジョウ!。コノバカタレガ!」
怒りも覚めやらぬ二日後の昼下がり。
「この時計300円で買って貰えませんか。」
目の前に腕時計を差し出す、いかにも気の弱そうな老人に戸惑った。
「時計は持っているからいいんですが、どうしたんですか。」
「はい。お腹がすいたものですから。」
「オマンサーどこからキヤッター?(あなたはどこからこられたんですか?)」
「志布志です。」(言葉ノ様子カラシテ、ドウモチガウンジャナイカ?)
「志布志!?ナイゴテ、生活保護の申請をシヤラントナ?」
「ハイ、今申請中です・・・。」
「それなら、仕方ない。ちょっと待ってください。」(チッ、千円札シカナイ!)「300円はないのでこれで・・・。」
「いいんですか!ありがとうございます。」
そして一週間後の司祭会議でのお知らせタイム。
「ペルー人女性が子供連れで教会に出没しています。旅費を下さい、ということですが、とても上手にだまします。既に、ここにいる人も何人か引っかかっているようですが、信用しないで追い帰してください。」
「追い返すとはいかがなものか。こういう人たちはまさに小さな人々なんだから・・・。小さな額でいいから・・・。」
司教さんの戸惑ったようなコメントと助言。
ああ、あの人たちは現代のラザロだったのか。だとすれば、いつか、宴席に連なるラザロたちを遙か彼方から眺めることになるのだろうか。
「父アブラハムよ、あの千円札ぐらいでは、その大きな淵を渡らせては貰えませんかね。」
「ウ~ム!」
信者の苦悩?も続く。