可愛いチリの囁き
2004.10.31(年間第31主日)ミサ説教音声
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知恵の書11,22-12,2
御前では、全宇宙は秤をわずかに傾ける塵、 朝早く地に降りる一滴の露にすぎない。
全能のゆえに、あなたはすべての人を憐れみ、 回心させようとして、人々の罪を見過ごされる。
あなたは存在するものすべてを愛し、 お造りになったものを何一つ嫌われない。憎んでおられるのなら、造られなかったはずだ。
あなたがお望みにならないのに存続し、 あなたが呼び出されないのに存在するものが 果たしてあるだろうか。
命を愛される主よ、すべてはあなたのもの、 あなたはすべてをいとおしまれる。
あなたの不滅の霊がすべてのものの中にある。
主よ、あなたは罪に陥る者を少しずつ懲らしめ、 罪のきっかけを思い出させて人を諭される。 悪を捨ててあなたを信じるようになるために。
(日本聖書協会『聖書 新共同訳』 より)
全宇宙がチリ、一滴の露。よくまあ、そこまで言えるもんだ。神様に対する、知恵の書の作者の渾身のゴマすり。しかし、これはあまり品のいい感想ではない。むしろ、いかにも、知恵の書の作者らしい賛美の仕方、の方がいいかも。いずれにしろ、眺めている世界が壮大すぎてついていけないが、この地球が、この自分が、そのチリの中にいるかと思うと、余りにもミクロすぎて、自分という存在が消えたも同然な感じがしてくる。
そんな、消えたも同然の自分が、突然、輝きを放ってクローズアップされ、「あなたは、・・すべての人を憐れみ、・・すべてを愛し、・・何一つ嫌われない」と言われても、落差の大きさに、これまたついていけずに、右往左往。
しかし、いずれの場合も、妙に説得力があるから不思議だ。人は地のチリから造られチリに帰るはかないもの。だが、神の歴史?はそんな人を巡って展開する。だから、神をその気にさせる人は偉大。そんな言い方は、尊大な感じがするので良くない。しかし、神様は、チリのまたチリのような自分を「嫌われない」どころか、変な言い方だが、神様にとって、この自分は、目に入れても痛くないほどに可愛いチリということになるらしい。
しかし、目を新潟に転ずると、「そんな戯(ざ)れ言をヌカスナ!」との声が飛んできそう。最愛の妻と子が、突然の土砂崩れに巻き込まれて絶命する。残された者の気持ちは想像だに出来ない。そんなむごい現実に対して、知恵の書の作者は何と釈明できるというのか?「命を愛される主よ、すべてはあなたのもの、あなたはすべてをいとおしまれる」と、それでも、言うつもり?ボクには言えそうにないのだが・・・。
だが、あの残された男の子とお父さんが、「天を恨み、地を恨んで生きる」のでなく、少なくとも、最愛の者から引き裂かれた痛みから一日も早く立ち直って、出来れば、ヨブが得たような以前にも優る報いを享受できるように計らってください、と神様に厳しく要求したい気持ち。
そんな、重たい課題を残したまま、先を急ぐのは辛いが、自分の歴史に目を転ずれば、今日の知恵の書のメッセージは福音そのもの。どんなに苦々しいことも、出来れば関わりたくない現実も、要するに、自分を煩わすあらゆる事や人が幾千幾万襲ってきたとしても、本当にそうなったとしたら怖いが、上記の戯れ言を撤回したくない感じ。今のこの幸せな状態は、幾分、後ろめたさを引きずっているとは言え、ボクの「すべてをいとおしまれる」神の愛の十分な証。
何とか、神様を弁護できないかと試みたのだが、台風に熊、地震にイラクと現実は余りにも重たくて・・・。