クレネのシモン
「オイ、お前、代わってやれ!」「えっ!ワ、ワシが?」「そうだ、つべこべ言わずに担ぐんだ!」群衆の中でひときわ目を引く大柄なシモンをローマ兵が呼び出した。
槍で小突かれながら引き立てられたシモンを見て、誰もが思ったに違いない。「とんでもないとばっちりを受けたものだ。極悪人の十字架を担がされるなんて…。」それはシモンとて同じことだった。
しかし、十字架のもとであえいでいるイエスを目にしたシモンは、意を決したかのように、まるで抑え込むようにイエスの肩に食い込んだ生木の十字架をヒョイと肩に担ぐと、イエスの手を取って起こした。イエスは肩で大きく息をしながら力ない眼をシモンに向け、か細い声で呟いた。「アリガトウ。」シモンは大きく頷づき、ゆっくりと歩きだした。「オーッ!」群衆からは驚きの声が上がった。
シモンにとって、それは、声援のように聞こえた。そして、「この人は極悪人なんかではない。」シモンはイエスの手を力強く握った。血の付いたイエスの手が握り返した。暖かかった。シモンの心から、先ほどまでの戸惑いや被害者意識はすっかり消えていた。むしろ、穏やかなイエスのまなざしと優しい響きのアリガトウにシモンの心は震えていた。何よりも握ったイエスの手のぬくもりに不思議な感動すらおぼえた。
シモンはエルサレム巡礼を終えるとクレネに戻った。しかし、あのお方の最後を見届けたシモンにとって、あの方はもはや行きずりの人ではなかった。復活のニュースに触れるにつけ、ローマ兵に強いられた十字架の道の意味をかみしめていた。「あのお方はメシアといってな、実はこのワシがお供して差し上げたお方なのじゃ。」エルサレムから西に遠く1500キロほども離れたクレネの町の昼下がり、子供たちを前に、目を細めながら誇らしげに語るシモンの姿があった。
小聖堂での道行きで出会ったシモンのお話の前編。え、後編もあるの?伝説では改宗したシモンはアンチオキアを拠点にパウロの強力な支援者になったと言われている。使徒言行録13,1に登場する「ニゲルと呼ばれるシメオン」が、実は、シモンのことだとか。
ともあれ、イエスの手のぬくもり。感じたいね。明日は主の過越し。
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