その名も「寅さんの神学」
著者はドミニコ会の神父さん。寅さんと言えば、40年近くも前のことになるが、「男はつらいよ」の主題歌を教えてくれたのはマリア会の司祭だった。司祭たちの心をも虜にする寅さんの人気の秘密は「非接触」ということだと意を同じくした。その後、会議で上京した折りに、主題歌を口ずさみながら葛飾柴又に足を伸ばしたことがある。
学者の神父さんの分析はさすがだ。ずいぶん以前から寅さん関連の本を書いておられて多くのマスコミからも注目されたらしい。寅さんの特徴は非接触と甘え。おいちゃんやおばちゃん、それに妹のさくらが住む「とらや」というまんじゅう屋が寅さんの帰るところ。いわゆる居候だが、いつでも我が物顔に振る舞う。
だからすぐに問題を起こして喧嘩になり飛び出していくのだが、そんな寅さんを全面的に受け入れていくのが妹のさくら。しかし、忘れた頃にまた舞い戻ってきては同じ結末をたどることになる。この繰り返し。「安心して甘えることが出来る」気持ちは、全く環境も体験も違うのだが、分るような気がする。
神学生時代、帰省すると2,3日は体が言うことをきかずだらだらと無気力に過ごしていたものだ。学期中は自覚したことはなかったのだが、久しぶりの我が家の快適さにすべての緊張が解けてつい我がままになってしまったのだと思う。数日経って元気回復。すると同居の叔母が、とくに食事時になると悲鳴を上げたものだ。
「カラさん甘さんチ いヤがくウば くオーてなさヌオシキラン!」(辛いの甘いのと、おまえが帰ったらうるさくてかなわん!)。「主の平和をもたらすはずの司祭の卵がこれではいかん」と思ったものの、「それはみんなを愛しているからなの」と反論したものだ。寅さんも同じ境地だったのではと思いながら読んだ一冊。ご一読あれ。
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