また恐怖政治が戻るのか
空港に殺到する人々をみると胸が痛い。民主化したとは言え、汚職など社会的腐敗もひどかったらしい。タリバン復帰を喜ぶ人々がいるというから遠すぎる国の実情は分らない。緑化事業に献身されたあの中村先生が尽くされた国だけに残念だ。
ところで、前線が停滞したお陰でなんと午後1時の気温は24℃。北ルソンの高地並みの涼しさだ。さてまた続きを書くとしよう。
◇ ◇ ◇ ◇
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アンプソガン周辺の山々
アンプソガンに着いたのは、ちょうど4時間後の6時30分だった。やはり電気のない村に夕闇が迫り、家々にランプがともされる頃だ。薄暗い店先には、何するともなく5,6人の若者達がたむろしている。突然現われた見知らぬちん入者に、一斉に好奇の目を向ける。
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バクン聖心教会。当時の場所から移転新築。
田んぼの向こうの赤い屋根が教会だとシスターが教えた。小学校の庭を横切り小さな橋を渡ったそこが教会だった。*前回の教会と同じもの。
レオ君とピオ君は、文字通り肩の荷を下ろすと、さっそく休憩室の長いすに腹ばいになって代わる代わるマッサージをしている。かわいそうに、山の若者とは言え、さすがに4時間もの重労働、小柄な二人にはやはりひどくこたえたたに違いない。
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向こうの尾根からみてもかなりの高地。どんどん道路建設が進む
初めての日本人司祭に一目会いたいと数人の村人がやって来た。中には、片道6時間もかけてやって来た人もいて驚いた。英語が話せない彼はそれでも終始ニコニコと笑顔を絶やさない。通訳の信徒代表アグストさんを介さなくても、彼がいかに素朴で実直な信者であるかよく分かった。
1894年、初めて宣教師を迎えた我が故郷の人々もおそらくこうだったに違いない。そして、素朴な村人達に囲まれながら、万里の向こうの故郷を思って感慨にふけったに違いない。むろん、3世代を経た今そんな宣教師達も村人もすでにない。
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お客さんを迎えてのベンゲットダンス
信者達と話していると外の暗がりでなにやら人の気配である。見え隠れする姿は子ども達らしい。クスクス笑ったりささやき合っている。「お入り」と声をかけると出しかかった顔がサッと闇に消える。「恥ずかしいんです。」シスターが教える。
何といっているのかと聞くとシスターが笑いながら教えてくれた。「『神父様は髪は黒く、鼻も低くて自分たちと同じだね』と言ってますよ。ベルギー人の神父様しか知らないからです。」一同、うなづきながら静かに笑った。
12月の北ルソンの夜は寒い。庭先で子どもたちが火をたき始めた。遅い夕食を済まして我々大人も子どもたちのたき火の輪に加わった。恥ずかしがり屋さんたちもいつの間にか私の側に来て腰を下ろし、なかなか離れようとしない。
シスターに促されると、先ほどとは打て代わって悪びれるようすもなくクリスマスソングを歌い始めた。何年生か聞きそびれたがおそらく3,4年生かと。すっかり打ち解けたらしくきれいな英語でいくつか歌ってくれた。
「神父様も何か」と言われたので聖夜を歌った。初めて聞く日本語の響きに目をぱちくりさせながら聞いていたが、終わると「ワー、日本にもクリスマスの歌があるんだ!」二度ビックリしていた。彼女たちにとっても異文化初体験。
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山が深いのでこうした滝もあちこちにあるらしい
「もう遅いから帰って寝なさい」と言うのに「まだ平気」と言って動こうとしない。ホントに人なつっこい子どもたちだ。それでも、「明日神父様は早く出かけないといけないから、さあ、もうみんなお帰り。」さすがシスター、鶴の一声。
10人の山の天使達はようやく重たい腰を上げた。そして、口々に「お休み、神父様」と言いながら暗がりの中に消えていった。「お休み、小さい天使達。」楽しい異文化交流のひとときだった。時計は10時をとっくに回っていた。つづく
*写真はいずれもピーター君から送られたもので、バクン、アンプソガン周辺。
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